工業デザインの練習帳

1988年生まれの工業デザイナー秋山慶太のブログです。

星のラジオについて 遠い会話

星のラジオというものを作ろうと考えている。海を超えて電波をキャッチする短波ラジオよりももっともっと遠く、他の星の放送を受信できるラジオ。




実際に宇宙の電波をキャッチするのはNASAとかに任せて、あくまでファンタジーを体験するための装置として、日常からつながる想像の世界が垣間見えるようなものをデザインしたい。
まだコンセプトはまとまっていないのだけれど、今考えていることをメモしておこうと思います。



遠いコミュニケーション

住んでいる街から離れた場所から手紙が届いたときや、SNSでいろんな友だちの言葉を見ているときに、どこか心地よい遠さを感じることがある。
疎遠なのが好き、ということではなくて、遠いからこそ感じる親しみのようなものと言ったらいいのだろうか。直接顔も見えないし、もしかしたら会ったこともない相手に共感したりあいづちをうったりすることは、近くの相手と話すこととはまた違う魅力があると思う。



深夜のラジオ番組を聴いているときに、しゃべっている人の名前も知らないのに、声だったりふとした言葉使いだったりを覚えてしまうことってないだろうか。そんな感じ。遠くとコミュニケーションするためには、必然的に速度はゆっくりになるし、内容もちょっとだけ丁寧になる。そんなところも好きなのかもしれない。



宇宙と電信




宇宙や星、電信についての描写がある本をいくつか読んでいる。

ベタなところからいくとまずは銀河鉄道の夜。きらきらと奇麗で冷たい描写が多くて好き。夜の飛行機とかで読むとロケーションもあって最高なのでぜひ試してほしい。この作品にとりかかるにあたってもう一回読み返したら、宇宙の広大さ、危い深さが感じられる部分もあって面白かった。石炭袋と呼ばれる空の穴の描写。


「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。」カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした。


それから、お正月に帰省したときに買った、サン・テグシュペリの「夜間飛行」これもよかった。静かな夜の始まり、飛行士が空から見る地上の光。あるいは、飛行士の上役が電波の向こうの暴風雨に思いを馳せるシーン。


あの農夫たちは、自分たちのランプは、その貧しいテーブルを照らすだけだと思っている。だが、彼らから八十キロメートルも隔たった所で、人は早くもこの灯火の呼びかけを心に感受しているのである。あたかも彼らが無人島をめぐる海の前に立って、それを絶望的に振ってでもいるかのように。

リヴィエールは思った。ここブエノス・アイレスでは、良夜で、こんなにも星がきらめいているのに、無電技師たちには遠くの雷雨の呼吸が聞えるのだと。


リヴィエールは考える。たぶんまだどこかの無電局が彼の声を聞いているはずだと。わずかに今ファビアンを現世につなぐものは、この音楽的な電波であり、かすかな音の高低でしかない。嘆きもない。叫びもない。あるものはただ、かつて絶望が発した最純粋な響きなる、電波だけ。



夜間飛行の引用のひとつめには、上で書いた「遠さ」のエッセンスが詰まっているように思う。二つめがまさに今回やりたいことで、星のラジオに触れる人たちには、遠くの星々の呼吸が聞こえるようになるはず。三つめ、これはかなりキツい表現なのだけれど、なにか引っかかるところがありメモしておいた。



遠くのものを引き寄せる方法

その昔、短波ラジオ(BCLラジオ)というものが流行った時期があったという。
短波ラジオを使えばFMやAMより遠くの電波を捕まえることができ、条件がよいと海外の放送を聴くこともできる。これで韓国や中国、ヨーロッパの国々の日本語放送を聴いて楽しんでいたファンがいたそうだ。それだけでも面白いのだが、そこにはラジオと電波だけでなく、もうひとつ「ベリカード」という要素があった。



ラジオ局は、自局の電波(=放送)がどこまで届いているかを知りたがっている。そのためリスナーが、「あなたの局の番組を、○○にあるわが家で聴くことができました」という便りを放送局に送ると、「了解です、ありがとう」という返信がラジオ局から返ってくる。ベリカードとは、そのときに同封してくれる、各局の趣向を凝らした絵はがきのようなカードのこと。インターネットが地球を覆った現在ではあまり考えられないが、以前はこのようなやり取りを郵便で行っていたのだという。(今でもベリカードを送ってくれるローカル局もあるらしいが)
あくまでも想像だけれど、ベリカードが届いたらすごく嬉しいと思う。海を渡って遠くから運ばれてきた電波を捕まえて、そこにメッセージを送ったら向こうにはやっぱり人がいたってことなのだ。おそらく、封筒を開けたとき、メッセージを見たときには、放送局との距離は一気に縮まったように感じるはずだ。
遠いコミュニケーションの醍醐味はこれなんじゃないかなと思う。そもそも、ラジオのつまみを回して電波を探すという行為そのものが、遠くのものを引き寄せることなんだけど。
ベリカードはラジオそのものではないけれど、何らかのかたちで作品世界に反映させられたら楽しいだろう。




宇宙のどこかで鳴っている音楽が、まるで自分のために演奏されているように感じられる機械。はるか遠くの電波を捕まえて、すぐそばまで引き寄せる機械。2014年はそんなラジオを作りたいです。